一トン四万円から五万円台。一年で三割動く相場と、解体業の関係を読む
使い終わった車に値が付くかどうかは、鉄の値段で大きく変わります。鉄スクラップが安かったころ、車は、お金を払わないと引き取ってもらえないものでした。いまは一トンあたり四万円台から五万円台です。その値段は、一年のあいだにも大きく動きます。日本鉄リサイクル工業会の価格表と、国の資料で、鉄と車の関係を読みます。
CHAPTER 1車の値打ちは、鉄で決まる
1-1 法律の出発点も、鉄の値段だった
自動車リサイクル法ができた理由を、環境省は二つ挙げています。一つは、シュレッダーダストを埋め立てる場所が足りなくなり、処分の費用が上がったこと。もう一つが、鉄スクラップの値段が低迷したことです。
車から取れる鉄が安くなり、残りかすの処分が高くなる。差し引きがマイナスになると、車は、お金を払って引き取ってもらうものになります。これが「逆有償」です。不法投棄の心配は、ここから出てきました。
審議会の報告書の案は、鉄スクラップの値段を、使用済みの車の値打ちを決める重要な要素、と書いています。値段は、法律の施行と前後して上がりました。
そのあとも、上がり下がりはあります。案によると、2008 年のリーマンショックの影響などで、一時は 1 トンあたり 1 万円台の前半まで下がりました。2026 年 3 月の時点では、1 トンあたり 49,250 円です。
法律は、三つの品目の費用を、車の流れの外に出しました。けれども、鉄の値段そのものは、いまも車の値打ちを左右しています。法律で変えられるものと、変えられないものがあるわけです。
1-2 相場に振り回された業界
鉄の値段が動くと、解体業の経営も動きます。そのことを、業界の団体が自分で書いています。
日本自動車リサイクル部品協議会は、1995 年に協議会が作られた背景を、こう説明しています。当時の解体業者は、鉄スクラップの市況の変動に振り回されていた。市況が悪くなると、中古部品の販売に力を入れる。そういう不安定な経営の形への反省があった。
この説明から、解体業には二つの売り物があることが分かります。部品と、鉄です。当時は、鉄の市況がよいあいだは鉄に頼り、悪くなると部品に力を入れる、という動き方をしていました。協議会は、それを不安定な経営の形と呼んでいます。
協議会は、部品の販売を安定させるために、商品の信頼性を高める取り組みを始めました。在庫の共有と、保証の基準づくりです。鉄の相場に左右されない柱を持とう、という動きでした。
鉄の値段を知ることは、解体業がなぜ部品に力を入れてきたかを知ることでもあります。
1-3 車体は、だれに売られるのか
部品を外したあとの車体は、どこへ行くのでしょうか。道は三つあります。
一つ目は、破砕業者です。車体をシュレッダーにかけて、鉄と非鉄金属を選び分けます。取り出された鉄は、鉄スクラップとして、製鋼のメーカーに売られます。
二つ目は、電炉や転炉に、そのまま入れる道です。車体をプレスして、破砕せずに、鉄鋼の原料にします。全部利用と呼ばれます。国の資料によると、2024 年度に、認定を受けた全部利用に回ったのは 139,738 台でした。解体の工程から、認定のない形で電炉へ入れられた車体は 1,718 件です。
三つ目は、輸出です。解体したあとの車体を、国内で破砕せずに、スクラップとして外国へ出します。自動車リサイクル促進センターによると、2024 年度は 218 千台で、前の年度より 20 パーセント増えました。
センターは、輸出が増えた理由をいくつか挙げています。海外の中古車の需要、中古部品の市場の成熟、為替の相場、海外の部品の買い手の日本への進出などです。車体の行き先は、国内の鉄の需要だけでなく、外国の事情でも動いています。
CHAPTER 2一年の値動き
2-1 工業会の価格表
鉄スクラップの値段は、だれでも見ることができます。日本鉄リサイクル工業会が、月ごとの価格の表を公表しています。もとの資料は、業界紙のものです。単位は、1 トンあたりの円です。
| 年月 | 関東 | 関東・中部・関西の三地区平均 |
|---|---|---|
| 2025 年 9 月 | 39,000 から 41,000 | 39,200 から 41,000 |
| 2025 年 12 月 | 42,500 から 44,000 | 42,800 から 44,700 |
| 2026 年 3 月 | 48,500 から 50,000 | 48,700 から 50,000 |
| 2026 年 6 月 | 53,500 から 54,000 | 53,500 から 55,500 |
| 2026 年 8 月 | 45,500 から 47,500 | 47,700 から 48,800 |
2025 年 9 月の三地区平均は、39,200 円から 41,000 円でした。2026 年 6 月は、53,500 円から 55,500 円です。九か月で、三割あまり上がりました。
そのあと、下がっています。2026 年 7 月は 51,000 円から 52,500 円、8 月は 47,700 円から 48,800 円です。二か月で、一割ほど下がりました。
価格は、幅で示されています。三地区平均の 2026 年 1 月は、43,000 円から 47,000 円と、幅が大きくなっています。表に入れなかった月では、2025 年 10 月が 41,800 円から 43,300 円、11 月が 43,000 円から 44,300 円でした。
2-2 一年を、図で見る
十二か月ぶんを、図にします。三地区平均の、幅の下の値を並べたものです。
2025 年の秋から冬は、四万円台の前半で、ゆっくり上がっていました。2026 年の 2 月から 4 月にかけて、急に上がります。2 月の 44,200 円が、4 月には 52,500 円です。二か月で、八千円あまり上がりました。
地域による違いもあります。2026 年 8 月は、北海道が 44,500 円から 45,500 円、関東が 45,500 円から 47,500 円、中部が 48,500 円から 49,500 円、関西が 49,000 円から 49,500 円でした。北海道は、ほかの地域より低くなっています。中四国と九州は、幅ではなく、49,000 円を中心とする値として示されています。
一年のあいだに、下の値で見て、39,200 円から 53,500 円まで動きました。使用済みの車の値打ちを決める重要な要素が、これだけ動くということです。解体業者が車を仕入れるときの値段も、この動きと無関係ではいられません。
2-3 この値段は、何の値段か
表の値段を読むときに、注意が要ります。これは、車のスクラップの値段そのものではありません。
表には、注が付いています。価格は「H2」のもので、電炉のメーカーか、輸出用の岸壁へ持ち込んで渡すときの値段だ、というものです。
H2 は、鉄スクラップの規格の名前です。工業会のページに、規格の表があります。「ヘビー」という品種の中の等級で、厚さが 3 ミリ以上、6 ミリ未満のものです。切断機やガスで、決まった大きさに切りそろえたものを指します。
車から出る鉄スクラップは、別の品種です。規格には、「プレス」の A という等級があり、主に使用済みの車をプレスしたもの、と書かれています。「シュレッダー」の A は、主に使用済みの車を破砕したものです。この規格は、日本鉄源協会が 2008 年 6 月に改訂したものだ、と出所が書かれています。
つまり、表の値段は、H2 という一つの規格の値段です。車から出るスクラップの値段が、この表に載っているわけではありません。審議会の報告書の案も、鉄スクラップの値段の推移を、この工業会の公表データで示しています。相場の動きを見るための、目安の数字として読むのがよいでしょう。
CHAPTER 3鉄スクラップという資源
3-1 一年に、二千五百万トン
鉄スクラップは、どれくらいの量が動いているのでしょうか。工業会が、数を出しています。
2023 年度に、市中から出て取り扱われた鉄スクラップは、25,454 千トンでした。工業会は、これを東京タワーにたとえています。東京タワーは 4,000 トンなので、6,364 基ぶんです。一年のあいだ休まずに処理しても、一日に約 17 基ぶんになります。
もとになるのは、国内にたまっている鉄です。建物、橋、鉄道、車、家電。国内で使われて、いまも何かの形で残っている鉄を、鉄鋼蓄積量と呼びます。2023 年度の終わりで、14 億 2,290 万トンです。
工業会は、この蓄積量と、スクラップの量の関係を書いています。蓄積量の約 2 パーセントが、一年に鉄スクラップとして出てくる、と見ることができる。蓄積が増えれば、スクラップも増える見込みです。
車は、その一部です。集め方について、工業会はこう書いています。専門の回収業者が集めたり、建物や車の解体業者が、鉄のほかの付着物や部品をある程度まで取り除いたものを、スクラップの加工業者が加工するのが一般的だ。解体業者は、鉄の流れの入口にいます。
3-2 六割は、電気炉へ
集められた鉄スクラップは、どこで使われるのでしょうか。工業会によると、国内で取り扱われた鉄スクラップの約 60 パーセント以上が、電気炉で使われています。残りは、転炉での製鋼や、鋳物に使われます。輸出もされています。
電気炉は、鉄スクラップを原料にして、鋼を作る炉です。工業会の説明では、電極と鉄スクラップのあいだにアークを飛ばし、その熱で溶かします。
高炉は、違います。鉄鉱石とコークスから銑鉄を作り、それを転炉で鋼にします。転炉にも、少量の鉄スクラップを入れますが、主な原料は銑鉄です。
だから、鉄スクラップの需要は、電気炉の生産と一緒に動きます。工業会の表では、電炉の粗鋼の生産量は、2014 年度が 25,259 千トン、2023 年度が 22,979 千トンでした。工業会は、最近は減少している、と書いています。
工業会のページは、鉄スクラップを国際商品と呼び、世界の流通の流れを図にしています。価格の表の注にも、輸出用の岸壁へ持ち込むときの値段、という言葉が入っています。鉄スクラップは、国内だけで値段が決まるものではありません。
3-3 これからの鉄
国は、鉄スクラップを、これからの大事な資源と見ています。審議会の報告書の案に、その動きが書かれています。
2026 年 4 月に、循環経済の行動計画が作られました。その柱の一つが、メタルリサイクルの推進の戦略です。鉄、アルミ、銅、永久磁石を、再生材を確保するために力を入れる資源と位置づけ、2030 年までの再生材の供給の目標を置いて取り組む、という方針です。
欧州でも、動きがあります。新しい車の規則の案は、鉄とアルミの再生材についても、使う割合の目標を決めることにしています。規則ができてから 2 年以内に、目標と始める時期を決める、という内容です。
国内では、スクラップを置く場所の決まりも変わろうとしています。案によると、不適正なスクラップヤードへの対策として、廃棄物処理法の改正が審議されています。使用済みの金属やプラスチックの保管や再生の事業に、都道府県知事の許可を求める方針です。自動車リサイクル法の許可を持つ解体業者と破砕業者には、その許可を受けたものとみなす措置を講じる方針だ、と書かれています。
鉄スクラップの値段が低迷したころ、使用済みの車は、お金を払わないと渡せないものでした。いまは、国が再生材として確保しようとする資源です。解体業は、その入口で、車を鉄と部品に分ける仕事をしています。値段は動いても、その役目は変わりません。
SOURCES出典
- 一般社団法人 日本鉄リサイクル工業会「価格推移表」
https://www.jisri.or.jp/kakaku(2026-10-02 確認) - 一般社団法人 日本鉄リサイクル工業会「鉄のリサイクルについて」
https://www.jisri.or.jp/recycle.html(2026-10-02 確認) - 一般社団法人 日本鉄リサイクル工業会「鉄リサイクルの仕組み」
https://www.jisri.or.jp/recycle/technology.html(2026-10-02 確認) - 一般社団法人 日本鉄リサイクル工業会「製品の種類と検収規格」
https://www.jisri.or.jp/recycle/specification.html(2026-10-02 確認) - 産業構造審議会・中央環境審議会 合同会議「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(案)」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/pdf/066_03_00.pdf(2026-10-02 確認) - 環境省「自動車リサイクルの概要」
https://www.env.go.jp/recycle/car/gaiyo.html(2026-10-02 確認) - 一般社団法人 日本自動車リサイクル部品協議会「品質保証」
https://www.japra.gr.jp/quality(2026-10-02 確認) - 公益財団法人 自動車リサイクル促進センター「自動車リサイクルに関するデータ/活動実績 等」(2025年10月14日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/pdf/061_04_00.pdf(2026-10-02 確認) - 経済産業省・環境省「自動車リサイクル法の施行状況」(令和7年9月5日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/pdf/060_s02_00.pdf(2026-10-02 確認)
この記事は、上の資料の原文を確かめたうえで書いています。台数や割合などの数は、資料に書かれているものだけを使いました。制度や手続き、税金の決まりは変わることがあります。実際の手続きは、運輸支局、税務署、都道府県の窓口などでお確かめください。